彦根アンドレア
ANDREA.H.ARCHITECTS
家は窓で決まる。
私たちには元来、外にいたいという欲求があります。しかし、自然環境の中、ずっと外で過ごすことはできません。私たちの生命を守るシェルターが必要です。できることなら家というシェルターの内側にいながら外を感じていたい。だから内と外の境目である窓を介して、外を感じられることが重要になってきます。
たとえばエネルギッシュに降り注ぐ朝日、高度の高い昼間の日差し、部屋の奥まで届くオレンジ色のサンセット、曇った日の包まれるように穏やかな明るさ。1日の中でも光はどんどん変化します。その光を経験できるのは一度きりです。そうした移り変わりを感じ取ることで、私たちは自然の中にいるような感覚になります。建物の中で光の変化を楽しめること、私はそれが大切だと思います。
外の変化を室内空間に取り込むには大きな窓が適していますが、家の中の窓をすべて大きく、明るくすればいいわけではありません。私は建物の中にあえて光を抑えた空間を作るために、窓を小さくしたり、窓の高さや位置を工夫します。そうすると、家の中に明るい空間・暗い空間のコントラストが生まれます。人間は情報の8割を視覚から得るといわれますが、照度が変わると脳が働きます。その刺激はストレスではなく、ポジティブに働くそうです。明るい・暗い、高い・低い、広い・狭い、家の中にいろいろな空間が存在することで、気持ちが動いて、私たちはイキイキと過ごすことができます。
変えないことで生まれる信頼。
私が初めてノルドの木製サッシを使ったのはIDIC(岩手県八幡平市/1992年竣工/ピーエス社)と同じ土地に建てられたゲストハウス(1996年竣工)のときでした。北東北の寒さに耐えられる熱損失の少ない木製サッシを探していたところ、ノルドを紹介されました。見せてもらったら、トリプルガラスも木製サッシの仕様もベストで、「やった!」と思いました。それから数え切れないぐらい使わせていただいています。
ただ、最初の頃はノルドのラインアップに引き戸があまり多くなかったから、引き戸は別のメーカーを使っていました。でも、あるときノルドが「引き戸に力を入れます」と言ってくれて。今は引き戸も含めて木製サッシはノルドをよく採用しています。
ノルドの良い所はコロコロと変えないことかな。サッシに使う木材もずっと欧州赤松でしょ。それをいろいろな地域で、いろいろな条件で使ってきた実績がノルドにはあります。この経験値が大事。
同時にフレキシブルな面もある。この窓を見て!窓枠をブルーグレーに塗装してもらったんです。最初はノルドの担当者に驚かれたけどね。計画に当たって私はこの風景を見ながら、内と外をどうつないだらいいのかを考えました。背景にある色を観察したときに、緑色も茶色もあるけれど、やっぱりブルーだと思いました。空も海も素晴らしいから。それでこの色にしてもらったんです。どうかしら?茶色だったらすごく目立ったはずなんです。ブルーグレーにしたことで、これだけ大きな窓の存在が黒衣(くろこ)になったと思いませんか。
一番環境に良いのは、愛される建築であること。
サステナブルという言葉がようやくいわれるようになったけど、建築を壊すことが一番環境に良くないと私はいつも考えています。本や雑誌で素敵な建築を見かけて行ってみたら、あるはずの場所に全然違う建物が立っているというのを、日本に来て何度も経験しました。
町の様相がどんどん変わっていったら、アイデンティティーはどこへいっちゃうの?子どものときに通った学校、若い頃の思い出が詰まった仕事場、大好きでよく足を運んだ美術館…。私たちは懐かしい建物に出会うと、安心して、笑顔になります。人間には生きるベースが必要です。
最もサステナブルなのは「愛される建築」を造ること。年月を追うごとに愛着が育まれ、守りたくなるような美しい建築を造ることです。そう考えるとプライスのバリューが変わります。長い目で「環境共棲」を見据えて、建築に高い基本性能を持たせ、「光・色・音・風」の変化を大切に計画すること。建てるときにはお金がかかるかもしれないけれど、建築が生き続けるであれば、そのプライスは掛ける価値のあるものとなります。
この町並みを守りたい。この環境を守りたい。そういう気持ちになるような建築を造ることが私達建築家の使命だと感じます。建築家はビルダーではない。造る人間ではありません。私たち建築家は、考える人間なのだから。
DATA
彦根アンドレア
ANDREA.H.ARCHITECTS
http://www.a-h-architects.com
取材場所
FRS