大塚 陽
オオツカヨウ建築設計
外の世界とつながりたいから。
「光を与えないと空間は生まれない」。
ルイス・I・カーンのこの言葉に、僕はとても共感します。もし暗闇だったら空間の認識ができません。光が入ることで明るさと暗さが生まれ、空間を認識することができます。それが建築の原点だと考えています。
もちろん、光を採り入れることだけを考えれば、照明でも空間認識はできるでしょう。でも、その空間は心地よいものでしょうか。窓のない部屋を想像すれば答えは明らかです。人工的な光だけで窓のない部屋に閉じ込められたら、四季はおろか、地球の営みを感じることができません。窓は内と外とをつなぐインターフェースであり、建築にとって重要なファクターです。
僕は住宅を設計するときに、まず、どこに人がいれば快適だろうかを考えながら敷地に立ちます。このへんかなぁと緩やかに決めて、どのように開くかを模索する。どう光を入れようか、どこから風を取り込もうか。決め手となるのはビスタ(眺望)です。建物からどのような景色が望めるだろうか、イメージを膨らませながら計画します。もちろん、見渡す限り視界を遮るものがない敷地は、特に都市では稀ですから、開きながら閉じることも考えなければなりません。中庭はできないか?デッキを造れないだろうか?と、外の世界とつながることのできる「第二のリビング」のような中間領域をプランに入れます。
外の世界とつながることを考えたら、できれば開口部は大きく取りたい。そうなると、トリプルガラスのノルドは、僕にとって大事な選択肢です。性能の良さはもちろんですが、なにより意匠性の高さが気に入っています。フィックスもあれば、引き戸もある、回転窓もある、という豊富なバリエーションもありがたいですね。
ノルドの良さは僕が説明するより実際に見てもらう方が早い。お施主さんにはできるだけ厳寒期にうちの事務所に来てもらい、「コールドドラフトがないよね」「木製サッシは触れても冷たくないな」「経年変化でこういう味わいが出るんだ」というのを感じてもらうようにしています。
窓は建築の一部だからこそ。
僕自身、トリプルガラスへのこだわりはありますが、トリプルガラスだから熱損失も結露もすべて解決するわけではないと考えています。窓はあくまでも建築の一部。そうした「一部」の積み重ねで建築は成り立つものです。暖房、換気、気密など、全体の構成をきちんと考えなければ、いくら3枚のガラスだとしても住宅全体の性能を損なってしまいます。
逆もまた真なりで、いくら躯体を高断熱高気密にしても窓ひとつで全体性能を下げてしまうこともあります。湿気や温度は弱いところに行くものです。壁に比べて窓はどうしても弱いからこそ、窓はできるだけ強いものを使いたいというのが建築家の本音です。そういう意味では、窓は建築を際立たせてくれる極めて重要なファクターのひとつといえます。
ハッピーであるために。
建築は必ず朽ちていきます。だから、手を入れながら付き合っていかなければなりません。ずっと変わらないなんてことはありません。
僕はお施主さんへの引き渡しのときにはいつも言います、「これからが始まりですよ」と。
大切なのは、「自分の家をわかって暮らす」ことです。どのぐらいの性能で、どうやって暮らしたらいいのかを。そういうのは実際に暮らしてみないとわからないものです。僕は建てた後、少なくとも1年ぐらいは時々お施主さんのもとへ訪問するようにしています。すると、「あれ?」と思うことがあるんです。お風呂から何から家全体で換気をしているのに、吸気口を閉めているからドアが開かないと困っていたり。「それでは新鮮な空気が入らないから、結露を起こしますよ」と、お施主さんを諭すこともあります。
お施主さんには選んだり、決定する責任がありますから、究極をいえば、お施主さんがハッピーであればどんな家でもいいと思っています。しかし、設計を任せていただく以上、僕には建物に対して責任があります。お施主さんにとって「心の帰る場所」になるような、住宅を建てるお手伝いができたらいいと、いつも肝に銘じています。
DATA
大塚 陽
オオツカヨウ建築設計
https://www.ohtsuka-yoh.com/
取材場所
ヒラヤノイエ